同じ体験を共有する喜び
パチパチと炎がはぜて、煙が上がる工房にはハーブの茎が練りこまれた縄文土器のような佇まいの塩釜がありました。釜で煮詰めているのは化石海水。温泉として湧く千二百万年前の海水を山奥の小屋で塩にしています。塩釜の周りに集まる六人は移住者とUターンの集まり。「まつのやま塩倉」は、それぞれが仕事を持ちながら『塩づくり』に関わるチームです。
「ずっと松之山温泉から塩が出来るという話は聞いていて、面白そうだなぁ、やってみたいなぁって思っていたんです」
嶋村さんが主宰していた「塩キャンプ」は夜中に焚き火で松之山温泉水を煮詰め、火を囲んで対話し、最後に出来た塩をおにぎりに振って食べる体験。これが事業の源泉となりました。
「同じ時間と体験を共有する。それが一番、楽しくて幸せで、心地良いことだなって。そこから塩づくりは始まっているんです」
廃材を薪に使い、地域資源である温泉を使う循環型の塩づくり。昔ながらの製法で作った塩はマイルドでキメ細かい。火を見ながら、釜を混ぜ、少しずつ煎ごうされていく塩の結晶を見ながら、この塩づくり込められた思いを語ります。
人が集まる場所をつくりたかった
嶋村さんが松之山で暮らすことになったのは、10年前に津南町の森林組合で働いていた時に一緒に働いていた何十年も長く働く同僚の家を訪ねたことがきっかけでした。
「ここに逆らえない心の動きを感じて、ここに住もうと思ったんです。十万円で茅葺きの良い家を買って暮らしたんですが、地震で倒壊してしまって。その木材を組み直して、今の家に住んでいます。最初はゲストハウスのような人が集まる場所を作りたかったんですよね」その家から見える越後三山に、かつて旅先で見た北アルプスの景色を重ね、足元に紫色の花が咲くホーリーバジルを植えた。その時にも頭に残っていた「紫の花と遠景の雄大な山」の風景が見たいという心の動きがあったのだといいます。
「自分が心地良いと思ったことを大事にしていて、それが軸になって暮らしや仕事があります。でも、それができなくて、違和感を抱えて苦しんでいる人もいますよね。その時に松之山でしかできないこと、土があるから出来ることを一緒にやっていけるようになればいいなって思うんです」
嶋村さんがこの地域に住んでから、いろんな人が体験を通して集まってくれて、助けてくれて、滞在するようになって、繋がっていきました。それを途切れさせず、塩づくりを通して、雇用をつくり、この地域で暮らせる人を家族を増やしたい。そんな思いが、「人が集まる場所をつくりたい」という昔からの思いが源流となって続いています。